はなお家に起こった小さな不思議
山奥にはなおが3組集められた話
嘘のような本当の話

あれはまだ大学生だった頃。
学校帰りにスーパーでバイトしていた時のことだった。
「あの〜・・・、実はうちもはなおって言うんですよ。」
大量の食品をスキャンし終え、お会計へとうつったタイミングで
50代くらいの主婦に話しかけられた。
( その頃はまだ、名札をつけて働いていた )
「いやあのね、うちの主人がどうしても言いたいっていうのよ。」
そう言うと主婦さんは申し訳なさそうに笑いながら
ほらっと後ろに隠れていた旦那さんをクイっと私の前にスライドさせた。
「あの、ごめんなさい。迷惑かなとは思ったんですけど」
「ありそうで中々ない苗字だから、つい気になってしまって・・・」
「もしかして、青森の方ですか?」
えっ違います・・・青森に多いんですか?
「はい、青森にはたくさんいますよ、てっきりそっちの方かと思っていました」
そうなると自分のルーツが気になってくる
家に帰ってすぐに聞いてみようと思っていたのに忘れてしまい
そのまま10年もの月日が経ったある日。
実家から久しぶりに「新しい猫がきたけど見にくる?(茶トラの保護猫)」
との連絡が入り帰省することになった。
リビングの真ん中で、まだ顔よりも耳の方が大きい2匹の子猫を
撫でたり吸ったりしながらゴロゴロしていると何故だか急にそのことを思い出す。
「そういえば、はなおって青森に多い苗字なの?」
テレビを見ていた父に投げかけてみた。
なかなか返事がないものだから、ん?と思って後ろを振り向くと
「そういえばさ、この前すごく不思議なことがあったんだよ」
と、何を思い出したのか父は、こちらが聞いたのとは全く別の話をし始めたのだった。
父のはなし

この前さ、お母さんと一緒に山梨旅行に行ったんだよ。
1泊2日の短いやつ。
ほら、お前にも一応声かけたけど忙しいって言って結局来なかっただろ?覚えてる?
あの旅行の日ね、実は泊まるはずだった宿から
もうあと1時間くらいで到着するって頃に、急に電話がかかって来たんだよ。
でたら、停電が起きたとかなんだかで
本当に申し訳ないんだけど、来てもらったところで何もできないって言うわけ。
ええっ!・・・て。
何もできないって言われても、もう来ちゃってるしなぁ・・・
何とかならないですか?
って色々聞いてはみたんだけど、とにかく向こうは本当に何もできないの一点張りで
こっちが何を言っても受け入れてくる気配がないんだよ。
しかも、その電話口の態度も段々こっちが物分かりの悪い人みたいな雰囲気にされて
俺もすごく腹が立ってきてしまって
「わかりました、もういいです。」って、切っちゃったわけ。
とはいえ途方にくれる父と母
とはいえ、そんなこと言われても俺もお母さんも困るじゃない。
もうすでに何時間も運転して来てるわけだし、次の日も山梨で行くとこ決めてたからさ。
どうしよう、何とかするしかないよなぁ・・・ってことで
とりあえず路肩に車止めて、その日それからでも泊まれる宿を探し始めたわけ。
でも、もうお互い60過ぎだからさ、スマホで宿を探して予約とか
なかなかできないわけよ、本当にものすごく大変でさ。
で、やっと俺が一軒、ダメもとで電話してみたところが
今日たまたまキャンセルが出たから良いですよって言ってくれたんだよ。
最初に予約してた所よりもだいぶ小さいところだけど、もう良いよねって。
お願いしますって、それから向かうことにしたの。
山奥の宿

こんなところ誰が来るんだよ。
って言うくらいわかりづらい道の先に、何とかその宿を見つけてさ。
それから荷物下ろしたりなんなりって手続きしてたら、何だか改めて腹が立ってくるわけ。
なんで何ヶ月も前から予約してたのに、当日になって急にあんな簡単に断れるんだよ。
というか、そもそもそうゆう時の対応くらいあらかじめ考えておくべきだし
さすがにあの態度はないだろ、って
もう、ぶつぶつぶつぶつ文句が止まらないわけ。
そしたら横でそれ聞いてたお母さんもイライラしてきちゃって、宿にじゃなくて俺にね。
いつまで言ってんの、面倒臭いなぁと。
もう、こうなったら最悪で・・・
せっかく旅行に来てるのに、お互い口も聞かずに温泉入って
最悪なムードのままご飯食べて、別々のタイミングで就寝することになったのね。
丁寧に並べられた靴
次の日、さすがに俺も良くなかったかなと思って
少し早めに一人で起きて散歩でもしようかと思ってロビーに出たらさ
玄関に、宿泊客の靴が丁寧に並べられてるんだよ。
イライラしてて気づかなかったけど
けっこう心遣いのある優しい宿だったんだなと思って近づいてったら
これ、まじな。
3組全ての宿泊客の靴の横に「はなお様」って書かれた紙が添えてあるんだよ。
もちろん、俺たちの靴の横にも。
宿泊客すべてがはなお

俺、鳥肌が立ってしまって。
「すみませーん、すみません・・・」
って早朝から受付で人呼んで
「すみません、あのうちはなおって言うんですけど、他の靴の横にもはなおって書いてあって」
「いや・・・そうなんですよ」
「えっ」
「正直こちらもびっくりしまして。田中さんとか佐藤さんが2組ほど揃うことは稀にあるんですが、はなおさんが3組はうちも初めてで・・・」
「本当に、皆さん、はなおさんなんですか?」
「本当に、はなおさんなんです。はなおさんが来る前、実は、今日は、はなおさんが2組もいる珍しい日だねって従業員で話してたら、途中で1組違う名前のお客様からキャンセルの電話がはいったんですね。」
「はい」
「これで、はなおさんだけになっちゃったっねって話してたら、話している間にもう一本電話がかかってきて・・・電話受けた者がものすごく不思議そうな顔で、もう1組はなおさんが来るって言うんです。嘘でしょう?って。聞き間違えなんじゃないのってみんなで驚いていたら」
「・・・」
「本当にもう一組、はなおさんが来られたので・・・」
スポンサーリンクそんなことがあったんだよ
何それ、なんか怖いんだけど。
「別に怖くはないだろ。・・・で何だっけ?山梨に多い苗字だって?」
ううん、私が聞いたのは青森。聞いたことある?
「ないなぁ、青森は。」
そっか・・・。
そのようにしてその話は終わったと記憶している。
それから数年後
それからまた2〜3年が経ったある日。
家からわりと近いけど、何だかんだ歩くからほとんど寄らないスーパーで
たまたま飲み物を一本だけ買った時のことだった。
お釣りを待っている間、ふと目の前の店員さんの名札みると胸がドキっとした。
見つけてしまった・・・
まだ20歳くらいの若い女性の店員さんだった。
どうしよう。
いきなり言われも困るかな。
そんなことを思っていると、気づくとお会計は終わってしまい
何か大きなものが、心につっかえたまま店を出る。
ガードレールに腰をおろして、しばらく考え込んでしまう。
( なんでなのかわからないけど何故か言いたくなってしまう )
あの時、私に声をかけてくれた旦那さんも、こんな気持ちだったのだろうか。
迷いに迷って、15分くらい立ったり座ったりを繰り返して
結局私は、遠くから彼女の顔をぼんやり眺めると
何も言わずにそのまま止めてあった自転車に跨ったのだった。
※ 実際は「はなお」ではありませんが、同じくらいいそうでいない苗字です^^
