一個ずつやっていけば、いつかは必ず終わるから
目次
途方もなくなる瞬間
なにかに追われて、どうしたら良いかわからなくなってしまったことはありますか?
世の中からだんだんと需要がなくなり
今はもう売れなくなってしまった本を
データでわりだし、棚からぬいて縛って整理する。
たったそれだけの作業でも、1人で何百冊もやっていると
「これ、いつになったら終わるんだろう・・・」
という、途方もない気持ちになってくることがある。
うすぐらい倉庫の中で、ほこりだらけの床に膝をついて
何年もの間、誰にも求められなかった本を引っ張りだして来ては
その一つ一つにざっくりと目を通し
次の行き先では貰ってもらいやすくなるよう、準備を整えていく。
君たち・・・次は頑張るんだぞ (`;ω; )
そう思いながらも、手元にあるリストの
信じられない分厚さを目にするたびに
スーーーーーハァァア
と、その終わりの見えなさに腹の底からタメ息が漏れ出る。
「休憩入りました?」
急に後ろから声をかけられ、ビクッとする。
「いやまだです、こんなにあって。」
「キリのいいとこで行ってくださいね~、僕は行ってきます〜」
何にも見ていないようで実はみているような
ざっくりとした優しさでまわっているこの職場の雰囲気が
何だかとても暖かく感じることがある。
スポンサーリンク力水という美味すぎる水
自販機にしかない謎のうますぎる水
力水を飲みながら元気をチャージしていると
昔、週末だけイタリアンのキッチンでバイトしていた時のことを思い出した。
その日は、来るはずだったバイトが急遽2人も来れなくなり
信じられない量の仕事を
全部自分1人でこなさなくてはならない事態に追い込まれてしまった日だった。
花ちゃんごめん、一緒に苦しもう!
出勤するなり、ぐちゃぐちゃの食器が
見たことないほど高く積み上げられたキッチンに
とてつもない違和感を覚えた私は、ピタリと足を止める。
「花ちゃん、ごめん!今日は一緒に苦しもう!」
そう私の顔をみるなり、放り投げるように言ってきたのは
当時、まだ25歳だった金髪の店長だった。
「えっ」
「あの、そう、バックれたられた!あの2人」
「えっ」
「ということで、今日は俺と花ちゃんの2人だけですっ!」
ニッと一瞬 笑ったかと思うと
パンっ!
とスライスしていた玉ねぎをボウルに放りなげ
「らっしゃぁあああせー!2名様ご来店でぇええええーーーーすっ!」
と、イタリアンとは思えないほどの雄叫びをあげながらホールに出ていった。
こ、、怖いンゴ (´ ;ω;` )
ただでさえ、忙しいとパニックになってしまう私は
とりあえずエプロンだけを身にまとうと、キッチンをうろうろしてしまう。
「ちょっと、何やってんの!」
「ごめん、アレとって!」
「違う!その下のやつ」
「そしたらとりあえず、パスタ5人分!」
「違う!1個は太い方だって!」
とにかく必死になりながら言われたことをやる。
アレやってコレやって、そのあとアレも用意して。
あ、そうだコレやっとかないと、アレができた時に困るんだった・・・
気づくと店長は、ホールでお客様対応に追われていて
キッチンには、自分1人だけが残されていた。
何からどう手をつけたらいいのかが、わからない
やらなきゃいけないことは、わかっている。
でも、何からどう手をつけたら良いのかがわからなかった。
そのことが怖い。
どこからどうしたら良いのかわからないまま
自分の力で進めていかなくてはならない。
とにかく、いま出来る精一杯のことを、こなしていく。
切って、炒めて、茹でて、洗って
どこにあるかもわからない食材を何とか探しだしてきては
わけわかんないまま手を動かし
やっとのことで数人分のパスタをつくりあげると
最後にバジルの葉を載せようと、棚の上に手を伸ばした時だった。
痛っ!
焦って伸ばしたヒジを、思いっきり厨房の壁にぶつけてしまった私は
そのままよろけて、自分の腰でパスタを床にぶちまけてしまう。
パリーンっ!
・・・・
どうしよう。
どうしたらいいんだろう。
これ以上もう無理だよ、、、
一気に心の波が押し寄せた。
やって、やって、わけわかんないままやり続けて
それでも転んでしまった今の状況が
当時の自分の置かれている人生そのものを
見事に体現されてしまったかのように感じてしまった私は
急に立ったまま目を閉じると、そのままフリーズしてしまう。
その間もポップな音を立てて、オーダーは鳴り続いていた。
スポンサーリンク花ちゃん、どうした?
その時だった。
背後から阿修羅のように、大量の皿をかかえて戻ってきた店長は
あーーーらーーーー
とだけいったあと、私の背中に向かって大きくこう言った。
「花ちゃん、大丈夫。」
「一個ずつやっていけば、いつかは必ず終わるから。」
一個ずつやっていけば、いつかは必ず終わる
その時、なぜだか妙に響いたのを覚えている。
たしかに・・・と。
たしかにそうだ、本当にそう、、
一個ずつやっていけば、いつかは必ず終わる。
本当ですね と私が少し驚いたように顔を見ると
当たり前じゃん 何いってんの、と返ってくる。
その当たり前が、何かに追われるとなぜだかいつも
私には見えなくなってしまう・・・
目の前のことを、一個ずつ、丁寧に
そうか、そうだよなと思うと不思議なほどに肩の力は抜けてきた。
一個ずつやっていけばいつかは必ず終わるし
一個ずつやることくらいでしか、何かを変えることはできない。
どんな些細なことでも、どんなに大きく見えることでも。
いつだって出来ることは、ものすごくシンプルで
目の前のことを、一個ずつ、丁寧に。
そう思うと、さっきとは少しだけ違う気持ちでフライパンを握り直すことができた。
気がしてくる、くらいのペースで
飲み終わった力水を、自販機横のゴミ箱に捨て
あらためて残りのリストをめくってみると
何だか思ってたよりも、終わりが見え始めているような気がしてくる。
もしかしたら現実というのは
気がしてくる、くらいのペースで景色を変えていくものなのかもしれない。
「当たり前じゃん、一個ずつやってけばいつかは必ず終わるんだから」
あれくらいのカラッとさで物事を見れるようになれば
もしかしたら、もう少し軽やかに色々乗り越えていけるのかもしれない。
