個人的体験談

東京タワーの思い出

hanao

思わず見つけてしまった、特別な景色

特別な景色を、誰かに見せたくなったことはありますか?

「東京タワーって、こんな色でしたっけ?」

古本の買取を終え

たくさんの本を積んだハイエースを運転しながら

年下の先輩が言った。

彼の記憶ではもう少ししっかりとした赤だったようで

言われてみれば、そんな気がしなくもないような気がしてくる。

久しぶりに、ぼんやりと眺めるその塔は

ついさっきまで800冊もの本を抱えては

急な階段を、登ったり降りたりしていた我々2人を、音もなく優しく照らした。

その灯りを見ていると、なんだかふと思い出したことがある。

二人乗りで通った塾

あれは小学3年生くらいのことだっただろうか。

当時、くもんという学習塾に通っていた私は

同級生の杏奈ちゃんという女の子といつも遅くまで残っては

都道府県の形をしたパズルを

いったい何秒で日本列島に完成させられるか

と言った独自のゲームにハマっていた。

「セーノっ」

でストップウォッチを、ピッと動かすと

カーペットに散らばったプラスチック製のパズルを

ものすごい勢いではめていく。

「痛っ!」

という声がして、ビクッと後ろを振り向くと

「あのさ、床でやらないって、何度言ったらわかるの?」

と、いつもは優しい先生が

足の裏に食い込んだ香川県を剥がしながら

私たちにしか聞こえないボリュームの声で静かに言った。

こっちを見ないまま言うあたりが

その本気度を物語っていた。怖い。

( やばいね、そろそろ帰ろうか )

杏奈ちゃんがいう。

( うん、ちょっと私自転車とってくる )

その怖さすらも、なんだかどこか愉快だったその頃。

私たちはいつも二人乗りで帰っていた。

人を送るのが、大好きだった

小さな頃から、人より少し身長の高かった私は

小柄な杏奈ちゃんくらいはヒョイっと後ろに乗せることができ

くもんが終わるといつも自分の自転車の後ろに乗せては

夜の遊歩道を、子供とは思えないスピードで突っ走った。

「はやぁーーー!」

「死ぬぅーーー!」

キャッキャと笑う杏奈ちゃんの手が

時折グッと腰に食い込むのがわかる。

「いや、いや!本当に!本当に!もうやばいってー。あーはっははっはは」

背中から聞こえてくる杏奈ちゃんの笑い声が何よりも大好きだった私は

もっともっと驚かせたくて、必死になってペダルを漕いだ。

漕いで、漕いで、笑って、漕いで

最後はへとへとになって、杏奈ちゃん家の前へとたどり着く。

「じゃあ、また明日!」

そう言って私が、ニコリと自転車にまたがると

彼女はなぜか、その時だけいつも

さっきまでとはちょっと違った雰囲気で

「気をつけて帰ってね。」と、寂しく笑った。

大人みたいな顔だな、と思ったのを覚えている。

そしてその、杏奈ちゃんの言う気をつけてねが

私は今でも、一番好きだったりする。

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夜の踏切

そんな彼女と、夜のジェットコースターをするようになって

1年くらい経った頃。

いつものように、クタクタに疲れ切って

自転車の荷台に彼女を乗せたまま

コロコロとハンドルを引きながら

最寄りの駅の踏切を渡ろうとした時

「待って、ストップ。」

ポンっと彼女がいきなり荷台から飛び降りた。

ん?

と、だまって彼女の方を見ると

私を制止するように、両手をスッと前に出した。

「そのまま、2歩下がって。」

「・・・そう、その線路と線路の間。」

「なになに?」

「いいから。」

満面の笑みで、ニコニコと微笑む。

「そのまま、左向いて。」

言われたように、そちらの方に体を傾けてみる。

「見えた?東京タワー。」

ここからしか見えないんだよ

見ると、大きなビルとビルの隙間から

そこだけまるで、扉が開いたかのように

東京タワーがスッと建っているのが見えた。

「ここからしか見えないんだよ。」

「一歩出ても、一歩下がってもだめなの。」

そう言って彼女は、私の横にきて

とても嬉しそうに、自分だけが見つけた特別な景色を見せてくれた。

今でもまだ見えるのだろうか

くたくたに疲れ切った体を助手席にだらりと伸ばしながら

「綺麗ですね、やっぱり。」

と呟くと

「そうですか、僕、あんまり建物見て綺麗とか思ったことなくて。」

と返ってくる。

正直な人だ。

正直だから仕事がしやすいし、これってどう思う?が聞きやすい。

そして、ふと思う。

あの頃、あの踏切から見た東京タワーって

・・・今でもまだ、見れるのかな?

現地に行ってみる

後日。

久しぶりに思い出してから

どうしても心のどこかで引っかかっていた

その駅に実際に行ってみることにした。

時刻は午後23時。

思っていたよりも緊張する。

記憶違いだったらどうしよう。

そう、たしかこっちの住宅街側の方の線路で

ここから2歩下がった、こことここの間・・・

世田谷線・若林駅

思い切ってあの日、彼女が指差した方に視線を向けると

そこには、大きなビルが立ち並び

どこからもその姿を確認することはできなかった。

もしかしたら私の勘違いだったのかもしれない。

そう思って恐る恐るスマホを開き

Googleマップで “ 東京タワー ”と検索してみると

それは、間違いなくその視線の先に

大きなビルがたくさん立ち並ぶその奥に

スッと赤いピンをたてた。

今頃どうしてるんだろう

マップに灯ったそのピンを眺めていると

そういえば私は、杏奈ちゃんみたいに

自分の見つけた特別な景色を誰かに見せてあげよう

と思ったことなど一度もないことに気づく。

すごいなと思った。

大切な誰かを、喜ばせたいと思ってしたまっすぐな行為は

こうやって時をも超えてしまうことがあるのだと、今になって知る。

覚えてるかな?

杏奈ちゃんは今でも実家に立ち寄った時とかに

思い出して、ここに立って眺めたりするのだろうか。

とにかく元気でいてほしい

今頃どうしてるかな。

そう思った頃には、もう連絡先もわからない。

でも、たとえ知っていたとしても

お互いに、違う時間が流れすぎた今

連絡しないような気もする。

でも、そんなことはどうでも良い。

ただただ、元気でいてほしい。

どんな人と、どんな時間を過ごしていようとも

とにかく元気でいてほしいと思う。

そんなことを思いながら、あの頃よりは

だいぶグレードアップした、スポーツ用の自転車にまたがる。

夜の空気が気持ちいい。

さてと、家に帰ってゆっくりしたら

明日も私は、1000冊の本を運ぶ予定だ。

書いている人
はなお
はなお
非日常ハンター
こんにちは、非日常ハンターの、はなおと言います。

普段は、古本屋で働いています。

いつもとは、ちょっと違った感覚になれるような「非日常」が大好きで、実体験をもとにこのブログを書いています。

同じような感覚の方と繋がれたら嬉しいです。

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