場にそぐわなくても
いつも選ぶものを変えてみる
正解なんてないから考えてみる
半年ほど前。
祖母のお墓参りに行こうと
いつも寄るスーパーの花屋さんに行くと、改装中だった。
仕方なく近くにあったオシャレな花屋さんに入ると
そこで初めて、そういえばお墓に持っていく花も選んでよかったことに気づく。
いつもは何も考えずにお墓参り用にセットされた花を選んでいたが
「どれにしよう・・・」と初めて持っていく花について悩んでいると
どう考えても、場にそぐわないものが目に入った。
真っ赤なバラの花たち
これはさすがにないよな・・・
と思うと同時にこうもよぎる。
そう言えば祖母は、生前、誰かにバラの花束をもらったことはあるのだろうか?
失礼だけど・・・ないような気がした。
好きかどうかは別として、誰かからバラの花を沢山もらうというのは
やはりどこか特別なことのような気がした。
そう思うと私は、普段は考えないようなことを考えてしまった今日くらいは
特別な日にしてみてもいいような気がしてきて
生まれて初めて、そこにあったバラを全て購入し
祖母のお墓へと向かったのだった。
スポンサーリンク選んでくれた方がやっぱり嬉しい
そんな話を、つい先日。
職場である古本屋で、お墓参りの話が出た時にしていると
そこにいたほとんどの人が
セットされたお墓参り用の花よりは
その人が自分を想って選んでくれた花の方が嬉しい、と言った。
そっかやっぱりそうなんだ・・・私もそうかもしれない・・・
そう思いながら売れた本の梱包作業をしていると
そろそろ行こうと思っていたもう一つの場所について思い出していた。
高校2年生の冬

学校終わりに母のやっている喫茶店へ夜ご飯を食べに行くと
「佐藤みさきちゃんって知ってる?」
と少し様子をうかがうように聞かれた。
嫌な予感がした。
母が知っているような名前ではなかった。
「知ってるけど・・・なんで?」
「そっか」
「・・・?」
「亡くなったって」
聞くと、私が来るほんの少し前に
たまたま私と同じ中学に娘さんが通っていたという女性が入店し
「明日、お通夜なのよ」と話し出したのだという。
母の勘

「誰か亡くなったんですか?」と母が聞くと
それがまだ娘と同い年の16歳の女の子でって。
なんとなく変な勘のある母は
失礼ですけど、うちにも数年前まで同じ中学に通っていた娘がいて
知ってるかもしれないのでお名前だけでも聞いてもいいですか?
と言って、聞いておいたのだと言う。
私は一通り話を聞き終えると外に出て
夜の商店街をいつまでもいつまでも自転車で走り続けた。
中学3年生の冬

当時、教室に通えなくなってしまっていた私は
みんなが登校し終わったあとの保健室に通っていた。
ところがその途中で、その学校にはカウンセリングルームなるものができ
私はそちらに移されることとなった。
カウンセリングルームはとてもシンプルな落ち着いた部屋で
その大きな部屋には3つの扉がついていた。
そしてその扉は、それぞれ1人用の小さな個室へと繋がっており
私はいつもそのうちの一つに入り、ただただボーっとして過ごしていた。
隣の部屋から物音がする
通い始めて2、3日くらい経ったころだっただろうか。
隣の部屋から時折、もの音がすることに気づいた。
もしかして誰かいるのかな・・・?
とは思いつつも、できるだけその存在をバレたくなかった私は
できるだけ物音を立てぬように静かに過ごしていた。
ところが昼食時・・・
運ばれてきたワゴンに給食を取りに行こうとした時・・・思わず鉢合わせてしまった。
それが、佐藤みさきちゃん(仮)一個下の学年の女の子だった。
お互いに知ってはいたけど、挨拶すらしたことないような仲だった。
数ヶ月の沈黙

数ヶ月間、給食をとりにいくときだけ
無言で顔を合わせるような日々が続いたが
ある日、私が個室から出てメインの大部屋で漫画を読んでいると
「なに読んでるんですか?」
と後ろから話しかけてきた。
「なんだろう・・・?私もわからない」
まさか出てくるとは思ってなかったので、上手く返せなかった。
「これ・・・読んだんですけど、全然面白くなかったです」
「面白くなかったの教えてもらっても・・・」
と私が言うと、クスクスと後ろで小さく笑う気配がした。
それを聞いて私も少し嬉しくなる。
そのようにして私たちは少しずつ少しずつ距離を縮めていき
気づくとお互いの部屋を行ったりきたりしながら
一緒に給食を食べるようになっていた。
私の卒業

そんな生活も数ヶ月ほど続き
ようやくお互いの背景もぼんやり見えてきた頃。
一つ年上だった私の一足早めの卒業という形で、その時間は終わりを迎える。
「はなおさんに沖縄のお土産を買ってきたから渡したい」
と彼女から連絡が入ったのはそれから1年後のことだった。
近所のファミリーマートの前で待っていると
以前より少し大人びた彼女が紙袋を持って現れた。
久しぶりに会う彼女はどうやらフリースクールに通い始めたらしく
そこでできた新しい友達や好きな人の話を、とても楽しそうにしてくれた。
私も新しい高校生活での話をしながら、一緒にお土産の塩ちんすこうを食べた。
それが私と彼女の最後の時間となった。
それから数ヶ月後。
彼女は自らの意思で向こうの世界へと行ってしまった。
今でもよくわからない

母から聞いた次の日だったか、そのまたもっと後の日だったか。
それがお通夜だったか、葬式だったかすらも思い出せない。
ただただ、みんなが啜り泣く長い列に並びゆっくりとその順番を待った。
列は本堂の外までずっと続いており、足元には冷たい雨がふっていた。
年に1度の大事な時間
祖母に捧げたバラを買ったオシャレな花屋さんにもう一度入ってみると
そこには、たくさんの色とりどりの花たちが並んでいた。
どれにしよう・・・と再び彼女について思いを巡らせていると
そういえばピンクの似合う子だったなということに気づく。
もう一度、店内をじっくり見渡してみると
ひときわ目を引く、ピンク色の大きな花があった。
ダリヤ。

そうだ、ピンクのダリヤにしよう。
今日だけはピンクのダリヤでいっぱいにしてあげたい。
はじめての乾杯
ダリヤは持ってみるとけっこうな重さだった。
(なんだかんだ12本も買ってしまった・・・)
茎が太く、見かけによらずたくましい。
途中でピンクのスパークリングワインも買って
たくさんのピンクで彼女の眠る石の上を満たすと
家から持ってきたワイングラスで乾杯した。

そういえば私たちは、もうとっくにお酒の飲める年齢になっていた。
次はどうしようか。
せっかくなら見たことないものや飲んだことないものを持って行って
驚かせ続けてあげたい。
いちぬけた 君を時々 思い出す ためだけにでも こちらにいよう
