個人的体験談

それが全然かわいくないんだよ

hanao

知らないクラスの知らない恋の物語

顔以外の何かに、惹かれたことはありますか?

二子玉の木

高校生の頃。

先生の一方的な都合で、午後の授業がまるまる自習になったことがあった。

何もすることがないので(あるはずです)

風呂上がりのカバみたいな顔でボーっとしていると

「あの・・・さぁ」

と、何かを思い出すかのような口調で、隣の席の下柳くんに話しかけられた。

「ん?」

「2組の倉本って知ってる?」

「倉本・・・全然わからない、男?」

「うん、男。あの野球部の、わりと体のでかい」

「ごめん、全然わからないかも、なんで?」

「そっか。そいつがさぁ、今、恋してるみたいなんだよ。」

「はぁ・・・」

どうでも良い・・・

知らないクラスの知らない恋の話ほど、どうでもいいものはなかった。

「それがどうしたの?」

「それがさぁ、全然可愛くないんだよ」

「?」

「その相手の女の子が、全然可愛くないの」

「・・・そうなんだ」

「失礼だけど、俺すごく不思議でさ。どんな所がいいの?って聞いたんだよ」

「うん」

そしたらさ・・・

そう言って彼は、知らないクラスの知らない恋の物語について話し出したのだった。

倉本くんの恋

二子玉川の水

2組でさ、夏の初めに席替えがあったらしいんだよ。

そしたらあいつ、一番後ろの席になったみたいでますます勉強しなくなって。

まぁもともと部活以外、興味ないような奴だし

昼間は出席さえしてりゃなんとかなるだろって、ほとんど寝て過ごしてたらしいんだよ。

そしたら今日みたいな自習の日にさ、ほら2組って治安悪いじゃん?

俺たちみたいに「じゃぁこの時間は自習で」って先生が教室出ちゃうと

もう手がつけられないくらいドンチャン騒ぎになっちゃうことがあるらしくて・・

それで、体育の山崎が監視に入ったんだって。

山崎先生の監視

シーンとした教室で、何もないと倉本みたいに寝るやつも出てくるから

山崎が用意した謎のプリント( 体育のくせに数学のプリント )が配られて

それを時間内に終わらせて提出しろっていうらしいんだよ。

えーこんなの自習じゃないじゃん・・・ってみんな思ったらしいんだけど

刃向かうとまた面倒臭いから皆んなしぶしぶやるわけ。

そしたら、ある程度みんなもう終わるかなって頃に

山崎が「なんかここ、こもるなぁ」って倉本の前まできて

すぐ横にあった窓を開けたらしいんだよ。

窓から入る夏の風

そしたら、ふわ〜って外から夏の風が入ってきてさ

目の前に座ってた西村さんの黒い髪をサラサラサラ〜って

ものすごく軽やかに吹き上げたらしいんだよ。

それ見た瞬間、あいつ

綺麗だな・・・って思わず目を奪われてしまったみたいで

それからずっとその自習が終わるまで、西村さんの髪ばっかり見ていて

気づくと自習が終わった後も、もう風はふいていないのに

それから何ヶ月も西村さんの髪ばかり目で追うようになって・・・

「なんか俺、好きになっちゃったみたいなんだよ」って話してきたんだよ。

何その話・・・

「めっちゃ良いじゃん・・・」

「・・な、だよな?めっちゃ良いよな?」

「うん、すごくいい」

「俺もなんか、すごくいいなって思ってしまって・・・」

そう言うと下柳くんは、何かを考えこむように再び黙りこんだ。

知らないクラスの知らない人の話を良いと思ったのは初めてのことだった。

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下柳くんという人

そんな下柳くんは、何故だか地味にモテる人だった。

小柄で、特に目立つようなことは何もしていなかったけれど

彼にしかない独特な雰囲気があり

そうゆうものがある一定数の人間を惹きつけるような所があった。

学年の中でもわりと有名な他のクラスの可愛い子とも

そこそこ長いこと付き合っていたようだが

恋することで芽生える自分自身の嫉妬心やあらゆる重圧に耐えきれなくなり

「俺には無理だ、ごめん」と自分からふってしまったらしい・・・

といったようなことを、誰かから聞いたことがある。

お別れした後も、休み時間になるとよくその可愛い元彼女さんが

他の女の子と一緒に、教室の外から心配そうに覗きに来ているのを見かけては

何とも言えない気持ちになったのを覚えている。

どっちも繊細で、どっちも魅力的な人だった。

ねぇ、ちょっと聞いてもいい?

気を抜くと下につく髪

銭湯の脱衣所で腰まで伸びた髪を乾かしていると、年配の女性に話しかけられた。

「ねぇ、あなたくらい髪を伸ばすのって・・・」

「どれくらいかかるものなの?」

「そう・・・ですね、4年くらいだと思います」

「そぉ〜良いわねぇ。私も若かったら一度くらいやってみたかったわ」

数年前から、なんとなく髪を伸ばし始めてから

ヘソくらいまで伸びたところで、やたらと髪について触れてもられることが増えた。

髪について触れてもらえた日は

いつもあの、顔も知らない同級生の髪から芽生えた恋の話を思い出す。

夜の遊歩道

いつもよるベンチ

銭湯帰りにいつも立ち寄る遊歩道のベンチに腰を下ろすと

そこは高校の頃、一度だけ下柳くんと通った道なことを思い出した。

文化祭の帰り道。

当時から、道に落ちてるものや建物の不思議に「なにこれ」と

いちいち立ち止まってはブツブツ言い出す私に

「あぁ〜。同じ道でも誰かと通ると、全く違う景色になるんだな」

と言って、こちらを驚かせたのを覚えている。

忘れられない記憶

と言うのは、なぜだかその時その瞬間はわからないことが多い。

いつも、すぎてから気づく。

例えばそれは、他のクラスで知らない女の子の髪が風に舞うことだったり

いつもの道を、隣の席の男の子と帰ることだったり。

※人物は全て仮名にしてあります

書いている人
はなお
はなお
非日常ハンター
こんにちは、非日常ハンターの、はなおと言います。

普段は、古本屋で働いています。

いつもとは、ちょっと違った感覚になれるような「非日常」が大好きで、実体験をもとにこのブログを書いています。

同じような感覚の方と繋がれたら嬉しいです。

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